大学無償化は、2020年4月に開始され、正式には、「高等教育の修学支援新制度」と呼ばれています。
この制度は住民税非課税など経済的に特に厳しい家庭を対象に「給付型奨学金」と「学費の減免」の2本立てで進学を支援するというものです。
この記事では、大学無償化(高等教育の修学支援新制度)のポイントと注意点をまとめています。
高等教育の修学支援新制度には所得制限があり、収入基準により3段階に分かれています。微妙なところで収入基準の段階が変わったり、制度の対象になる、ならないの分かれ目となったりします。
対策できることがあるなら事前に対策するのも一つの方法です。場合によっては対策が可能というものをピックアップしてみます。
高等教育の修学支援新制度は二本立て
高等教育の修学支援新制度では、返済不要の「給付型奨学金」と、進学先となる大学等の「学費の減免」の二本立ての支援を受けられます。
修学支援を受けるには、学生は「家計基準」と「成績基準」を満たす必要があることは当然ですが、進学先も文科省や厚労省、 地方自治体などから認定を受けなければなりません。
2020年11月時点での認定割合でみると、国公立の大学・短大、高等専門学校は設置数に対して100%の認定率となっていますが、一部の私立大学・短大では認定外となっています。
また、専門学校は設置数に対して7割程度の認定率となっているので、特に専門学校進学の場合は、進学先が対象校となっているかどうか、事前によく確認することが必要です。
高等教育の修学支援新制度の申請の流れと2つの方法
高等教育の修学支援制度の給付型奨学金の申込みは、日本学生支援機構の貸与型奨学金と同じで「予約採用」と「在学採用」の2つの方法があります。
予約採用
- 高校3年生時点での申込み
- 進路未定でも申し込み可
- 卒業後2年目まで申し込み可
予約採用の募集に関しては、日本学生支援機構がそれぞれの高校に一任しています。 そのため、募集回収や締切時期は高校ごとに異なるので注意が必要です。
高校側は、案内しているにも関わらず、子ども本人が話を聞いていない、あるいは我が事と思っておらず、説明会に参加しないとか、書類を持って帰らないという話を毎年聞きます。まさに我が家がそうでした。
家庭で奨学金を利用することを考えているなら、子ども本人が自覚を持って臨むことが大切です。
予約採用のメリット
予約採用、在学採用ともに年間の支給額は同じですが、在学採用よりも予約採用のほうが初回の振込み時期が早くなります。
入学初年度は何かと物入りなので、奨学金が早く支給されるほうが安心です。
予約採用の最も早いタイミングで10月下旬には決定通知が届きます。受験前に経済的な不安が緩和できるメリットも大きいです。
在学採用
在学採用の募集は原則、春の一度きりで入学直後、タイトなスケジュールで行われます。特に昨年、今年とコロナの影響で学校に通学するのもままならない時期があったりで学生本人が情報を自ら情報を得るように行動することが大切です。
せっかくの募集案内を見逃すと奨学金の申請機会を来年まで待たなければなりません。 高校までとは違って、大学では学生を大人扱いするうえ、ひとり暮らしなど始めていると親の目も届きにくいため学生自身が自分にとって大切な情報を見逃すことのないように意識することが大事です。
在学採用のメリット
在学採用では「学校種別」「通学環境」により成績と収入基準が異なります。
さらに、在学採用では学生本人の進学後の授業料が収入から特別控除されます。 そのため、予約採用では収入基準がオーバーしてしまった家庭でも在学採用で収入基準をクリアできる可能性があります。
高等教育の修学支援新制度の申請基準(予約採用)
修学支援は特に経済的に厳しい家庭に限定された無償化政策です。収入に応じて3段階の支援割合が設けられています。
収入基準(4人世帯の目安)
世帯年収 | 区分 | 支援割合 |
---|---|---|
約270万円(非課税) | 第1区分 | 満額支援 |
約300万円 | 第2区分 | 2/3の額を支援 |
約380万円 | 第3区分 | 1/3の額を支援 |
成績基準
以下のいずれかに該当する人
- ①高校の成績が5段階で3.5以上の人
- ②学修意欲がある人
修学支援の給付型奨学金の成績基準は、「高校の成績が3.5以上」「学修意欲がある」のいずれかに該当する人となっています。
3.5未満の学生に対しては、教員や職員が面接し、作文等を通して意欲を確認するとなっており、実質的に成績基準は厳格ではなく、収入基準だけで判断されると理解していいでしょう。
修学支援制度による支援額
給付型奨学金
「学生が学業に専念するため、学生生活を送るのに必要な学生生活費を賄えるよう措置」。つまり学費に充てるのではなく学生生活費として毎月給付を受けられるものです。
みるとわかるように、自宅外生の方が手厚い給付となっていますが、これは給付型奨学金が「生活費支援」の位置づけにあるためです。
上記表、第一区分(満額支援)は住民税非課税や生活保護世帯が該当しますが、かなり手厚い給付といえそうです。
学費の減免
上記は、第一区分(満額支給)の場合の学費の減免の上限額です。
これにより、国公立大学では学費が実質無料となり、私立大学でも授業料が最大70万円減免されます。
入学金は一度きりですが授業料は毎年なので、いかに手厚い支援かがわかると思います。
注意点
- 修学支援で減免されるのは「入学金」と「授業料」だけです。 私立の大学や専門学校では、その他施設設備費などが必要となることが多いですが、それらは減免の対象外となっています。
- 支援が受けられるのは修学支援認定校のみです。自分が進学する学校が認定校かどうかはしっかり確認しておくことが必要です。
- 貸与型奨学金との併用は第二種奨学金で考える
日本学生支援機構の給付型奨学金と貸与型奨学金を併用することができますが、無利子の第一種奨学金では、第1、第2区分の採用者は実質的に利用することができません。 - 第3区分の採用者だけが第一種奨学金と併用できますが、その金額も通常の貸与額よりもかなり少なく制限されます。
- 貸与型奨学金と併用する場合は、有利子の第二種奨学金で検討する方が現実的でしょう。
- 貸与型奨学金との併用は第二種奨学金で考える
- 学費や学生生活費の不足分を学生本人のアルバイト収入で賄おうという考えもあるかと思いますが、毎年学生本人の所得確認もあります。
- 不足分を学生本人のアルバイト収入で賄おうとする場合であっても、学生本人の収入基準で基準を外れることのないよう注意が必要です。
修学支援の最大の注意点
修学支援制度の最大の注意点が「入学時納付金」です。
文科省では、修学支援の採用予定者には入学金等の徴収猶予のお願いをしていますが、強制力があるわけではなく、最終的に大学や専門学校の判断に委ねられています。
そのため、進学先により、その対応はまちまちです。
結果的には、通常と同じように入学時納付金の納付を求める学校が大半であると思われます。
したがって、修学支援制度の申請者であっても、合格発表後に必要な入学時納付金は預貯金か教育ローンなどで工面する必要があるであろう点は注意が必要です。
また、給付奨学金についても、給付の開始は早くて5月上旬、連休明けです。在学採用なら、早くても7月からの給付となります。
その間の学生生活費についても、準備しておくことが必要です。
特に、昨年からのコロナで学生のアルバイトも雇い止めや思うほど簡単に見つけられないケースもありますし、アルバイト代も実際の労働からひと月遅れでの支給などとなる場合がほとんどです。
入学から2、3ヶ月の間、給付やバイト代が入らなくても生活できるだけの準備は何らかの形でしておきましょう。
また、入学時には、教科書代、PC購入、ネット環境を整えるなど、少しまとまった資金も必要になります。
学校により、Wi-Fiやタブレットの貸与や支給があることもあるので使える制度がないか確認してみましょう。
かなり手厚い制度ではありますが、授業料や在学中の費用が全く無償になるわけではありません。見通しを立てて、早めに必要資金の手立てをすることも必要です。
家計基準が微妙な場合にやっておくといい対策
大学無償化(高等教育の修学支援新制度)の収入基準は、
- 【第1区分】あなたと生計維持者の市町村民税所得割が非課税であること(※1)。
- 【第2区分】あなたと生計維持者の支給額算定基準額(※2)の合計が100円以上25,600円未満であること。
- 【第3区分】あなたと生計維持者の支給額算定基準額(※2)の合計が25,600円以上51,300円未満であること。
となっており、市町村民税所得割が非課税である世帯、それに準じる世帯となっています。
収入、給与所得金額、税率は個人が操作することのできないものです。つまり、住民税を減らす(所得割額を減らす)対策とは、「所得控除の額」をできるだけ増やすことです。
- 医療費控除
- 扶養控除
- 配偶者控除、配偶者特別控除
- 社会保険料控除
- 生命保険料控除
- 地震保険料控除
- 小規模企業共済等掛け金控除
- 障害者控除
- 寡夫、寡婦、特別の寡婦控除
- 雑損控除
- 基礎控除
- ふるさと納税
- 確定拠出年金(iDeCo)を活用する(全額所得控除)
これらの控除や制度のうち、使えるものをフル活用することで所得割額を減らすことが可能です。
家計基準は、前年度の課税証明(非課税証明)などで判定されます。
高校3年生で予約採用に応募するとなると、高校2年生の年度の課税証明を提出します。その後、奨学金支給期間中、毎年、奨学生本人及び生計維持者(父母等)の経済状況に応じた支援区分の見直しを行い、10月以降の1年間(家計急変事由が適用されている場合は、3か月ごと)の支援区分を決定します。
つまり高校2年生の年度にはそれぞれできる対策をしておくべきということになります。
大学入学してからの対策では遅いということです。
僅かな差で、大学無償化の制度の対象になるかならないか、あるいは区分が変わるという場合には対策をとることで受けれる金額が変わることは十分ありますのでやる価値はあると思います。